こんにちは。iKKAの木原です。
家づくりの仕事を続けていると、季節の変化に少しずつ敏感になってきました。
春が来たと思えば、早くに夏になり、秋はあっという間で冬は長い。
畑に種を蒔く時期や定植、収穫する時期も悩むようになりました。
そんな移り変わりの中で、子が成長していく姿を見るたびに、過ごす時間は大切にしたいと思う事が増えました。
今日はその延長で最近考えている家づくりについて考えをまとめてみようと思います。
もし何か一つでも、家づくりのヒントにしていただければ嬉しいです。

家づくりのご相談をいただくと、「まず図面を…」と想像される方もいると思います。
私は図面の前に “これからの暮らしはどういうものになるだろう”というイメージから入ることが増えました。
家づくりは形をつくるだけではなく、これから続いていく生活のシーンを考える作業でもあります。
「朝日はどの場所に入るだろう?」
「帰ってきたときはどの場所が落ち着くだろう?」
「休日に家族で過ごすなら、どんな時間が心地よさそう?」
そんな会話から、その家の輪郭が自然と浮かんでくることが多いです。
“これからの景色を選ぶ”という感覚に近いのかもしれません。

お家は設計図が完成した瞬間に出来あがるものではありません。
住み始めてからの時間が、家をすこしずつ“その家らしく”育てていきます。
朝の光が差し込む方向、キッチンから聞こえる生活の音、雨の日に落ち着ける居場所…
そんな日々の積み重ねが、その家の表情になり、家族の物語になっていきます。
お引き渡し後にOBさまと話すと、
「この窓辺でコーヒーを飲む時間が気に入っていて」
「この家になって、新しい習慣ができて」
「気づいたら子どもたちが自然と集まる場所があって」
と、“暮らしの今”の話をよく聞かせてもらいます。
そのたびに、小さな体験の積み重ねが家の満足度を深め、たくさんの暮らしの景色をつくっていくのだと感じるようになりました。
そこから「暮らしの密度」「居心地の密度」という言葉が生まれて、自分の中で大きな軸になっていきました。

暮らしの密度を考えていると、もうひとつ気づいたことがあります。
同じ空間にいても、なんとなく気持ちが外に向いたままになる。
そんな場面を、後から心理的不在と呼ぶのだと知りました。
同じソファに座っているのに、どこか気配が遠くにあるあの感じ。思い当たる場面があると思います。
そこで感じたのは、家の中に“選べる居場所”があることは、暮らしの密度に関わっているのではないかと思いました。
・階段の途中の窓辺
・ダイニング横の小さなデスク
・一畳ほどのヌック
・少しこもれるワークスペース

そういった場所がいくつもあると、ひとりで落ち着きたい時間や家族とゆるくつながっていたい時間が無理なく共存します。
居場所の選択肢が増えるほど、小さな体験が積み重ねやすくなり、暮らしの密度はゆっくり育っていくのではないでしょうか。
それは、使い込んだ家具の手触りが少しずつ変わるような、“その家らしさ”が深まっていく感覚にも近い気がします。

そして、家での居心地は外の環境ともつながっています。
光、風、季節の匂いなど、土地が持っている特徴はいつもの暮らしの背景となっていきます。
・朝日が入る場所
・風が抜けやすい場所
・夕日が入る角度
土地には、それぞれ環境がくれた“ヒント”のようなものがあります。
家を考えるときは、まずその土地に立って歩き、それらを探すことから始めています。
敷地の広さや家族構成、暮らし方は人によって本当にさまざまです。
だからこそ、その人の暮らしがその土地でのびのびと整っていく形を考えるようにしています。
土地は暮らし方のベースになり、家はそこで流れる時間を整える。
その時間を季節に振り回されずに過ごすために、断熱といった性能が必要になります。

性能はとても大切ですが、それ自体が目的ではありません。
大事なのは、あなたの毎日が気持ちよく積み重ねて過ごせること。
守りたいのは“時間の質”です。
暑い日も寒い日も、普段どおりに過ごせることは、暮らしの安心につながっていきます。
その延長線にあるのが「パッシブデザイン」という考え方です。
聞き慣れない言葉かもしれませんが、内容はとてもシンプルです。
自然の力を借りて、日々のストレスを減らす。
・風が抜ける方向に窓を置く。
・夏の陽ざしを軒や木々でやわらげる。
・冬は太陽の熱を取り入れる。
そうした工夫は、毎日の暮らしや居心地に影響してくれます。

家づくりは“今の暮らし”を形づくるだけではなく、これから先の時間を支える土台にもなります。
季節が変わるように、家族の形や気持ちもゆっくり変わっていきます。
その変化を受け止められる家は、日々の積み重ねをそのまま大切にしてくれます。
自然が少しずつ変化していくように、私たちの暮らしも小さな積み重ねの連続です。
その重なりが、“これからの景色”をつくっていくのだと思います。 あなたのこれからの日々が、その土地で、その家で、少しずつ育っていく。
そんな景色づくりの一部をお手伝いできたら嬉しいです。




